1.はじめに

行政行為には私法上の法律行為には認められない独自の効力が認められると考えられています。

それが①公定力、②不可争力、③不可変更力、④執行力と呼ばれる効力です。

この中で特に重要なのは①の公定力です。

①の公定力と②の不可争力はセットになっている効力です。

また、③の不可変更力や③の執行力は、全ての行政行為が対象となるわけではないことに注意が必要です。

(従来は、「拘束力」という効力を行政行為の効力として挙げることもありました。

現在では、この効力は行政行為に独自な効力ではないことから「拘束力」を行政行為の効力としては考える必要はないという立場が有力になっています。

そのため、これを行政行為の効力としては挙げない教科書が多くなっています。)

入門では、「公定力」に焦点を当てていきます。

2.公定力とは何か?

行政行為は、権限がある機関が取り消さない限り、たとえ違法であっても有効なものとして通用する、とされています。

このような効力を「公定力」と呼んでいます。

この点を私法上の行為と比べてみましょう。

たとえばA―B間で締結された契約を詐欺を理由に取り消す場合(民法96条1項)を考えてみます。

この場合、(実際に詐欺行為があったことを前提に)Bに騙された!と思ったAが「取り消します!」という意思表示をすると、それで取消しの効果は発生します。

もちろん、Bが「騙してなんかいない!」と主張して争う姿勢を見せた場合、裁判に持ち込まれることにはなるでしょう。

しかし、裁判所が「詐欺がありました」と認定しない限り詐欺を理由とした取消しが認められない、ということはありません。

ところが、行政行為の場合、たとえその行政行為が間違っていた(=違法)としても、相手方たる私人が単に「間違っているから従わなくてもいいはずだ」と勝手に言っているだけではダメなのです。

私人の側で積極的に動いて、権限ある機関に「確かに間違っていますね。取り消します!」という宣言をしてもらわないと、本当に違法な行政行為だったとしても有効・適法なものとして扱われてしまうということです。

したがって、仮に、税額を間違った課税処分がされた場合において、「金額が間違っているからその分は払わない」といって支払わないでいると、税金を滞納していることになってしまい、滞納処分(財産や銀行口座の差押え等)をされてしまうことになりかねないのです。

では、この場合の、取り消す「権限ある機関」とは、どこでしょうか?

まず、行政行為を行った行政庁は職権(職務上の権限)で取り消すことができます。

したがって、もっとも簡単な方法は、行政庁たる税務署長(実際には担当の税務署員)に対して「この課税処分、金額間違っていますよね?」とクレームを入れて、「あ~計算ミスでした~取り消します!」とやってもらえば一番いいわけです。

しかし、単純な計算ミスなどではなく、税法の解釈などに関わる部分であれば、税務署の側は「間違っていない!」ということで、頑として間違いを認めない場合があります。

このような場合に私たち私人の側で採れる手段として用意されているのが、①取消訴訟を起こして裁判所に取消してもらうという手段と②不服申立を起こして審査庁に取り消してもらうという2つの手段です。

逆にいうと、取消しの判断をしてもらう法的手段としては、この2つしかないということです。

①②のいずれかの手段を使って、「間違っていました(=違法でした)。取り消します!」と判断をしてもらうことで、違法な課税処分の効果がようやく消滅するのです。

3.公定力の根拠

古くは(基本的に戦前の考え方)、″お上は間違わない”式の権威主義的な考えたが根拠になっていました。

しかし、現在ではそのような考え方は当然説得力のある根拠とはなりえません。

現在は、公定力の根拠として、取消制度の排他性(=取消訴訟の排他的管轄)を挙げるのが通常です。

行政行為が違法な場合、それを争うための仕組みとして、行政事件訴訟法では「取消訴訟」という仕組みを設けています。

立法者(具体的な国会のこと)が「違法な行政行為がされた場合には、この訴訟を使ってね!」とわざわざ制度を法律に作ったのだから、それを使うべきだ!

それが立法者意思である。という考え方です。

仮に、取消訴訟制度が法定されているにも関わらず、それを使うことなく行政行為の違法を争うことができるとすると、立法者が取消訴訟制度を作った意味がなくなるじゃないか!

だから、行政行為の違法を争いたいんだったら、取消訴訟を起こさないといけないんだ!ということです。

これを取消訴訟の排他的管轄と呼びます。

排他的というのは、他を排除する、という意味ですね。

管轄というのは、そこで扱う、という意味です。

つまり「取消訴訟の排他的管轄」とは、取消訴訟以外の″他のやり方を排除し”(=排他的)、取消訴訟だけで″扱う”(管轄)という意味の用語です。

実際には、①取消訴訟だけでなく、②不服申立てによる取消しもあるので、これを②の存在も含めて一般化した言い回しが「取消制度の排他性」です。

(通常は「取消訴訟の排他的管轄」と言って終わりにしてしまうのが通例です。しかし、講義でこう説明すると、必ず講義後に質問がきます。

生徒「先生、②の不服申立てによる取消しもあるので、取消訴訟が唯一の争い方ではないのに、取消訴訟の排他的管轄が公定力の根拠というのは納得がいかないんですけど?」

先生「う~ん・・・・」(そこあんまり神経質にならないでくれる。。。。)

みたいなやり取りになるんですね~)